人物
フリードリヒ・パウルス
独第6軍司令官
生没: 1890–1957
正しい判断を持ちながら、撤退という選択肢を制度的に取り上げられた指揮官。
参謀として作戦計画の立案に長く関わってきた将軍。無能さで彼の敗北を説明することはできない。11月下旬、包囲が閉じかけた段階で突破の許可を求めたが拒否され、空輸で維持できるという上位の説明が与えられた。その前提が崩れたあとも命令は変わらず、彼には枠の外へ出る権限が無かった。読めていたのに動けなかったという点で、トラファルガーのヴィルヌーヴと同じ位置にいる。
流儀:手続きに忠実で、手続きの外に出られない
パウルスは参謀として有能で、作戦計画の立案に長く関わってきた人物である。無能さで彼の敗北を説明することはできない。問題は、状況が変わったときに、自分の判断で枠の外へ出る権限を持っていなかったことにある。
11月下旬、包囲が閉じかけた段階で彼は突破の許可を求め、拒否された。空輸で維持できるという説明が上から与えられ、その前提が崩れたあとも命令は変わらなかった24。正しい判断が構造に無効化される形は、本サイトのクトゥーゾフ、パウルス(カンナエ)、グラビナと同じである。
繰り返し現れる型
命令の枠内で最善を尽くす
与えられた枠のなかでは的確に動く。枠そのものを疑う権限は持っていない。
上位の約束を前提に置く
空輸で維持できるという約束を計画の前提にした。約束が守られなかったときの代替が無い。
責任の所在が動かない
独断で突破すれば軍法に問われる。従えば軍が消える。どちらも彼個人には解けない。
強みと弱点
大兵力を計画通りに動かす能力があった。
計画が前提から崩れたとき、それを捨てる権限が与えられていなかった。
包囲後も部隊の統制を保ち続けた。
その統制が、突破の機会が残っていた短い期間を静かに使い切った。
流儀が見えた場面:スターリングラード
彼の降伏は、個人の弱さではなく撤退という選択肢を制度的に取り上げられた指揮官の結末である。読めていたのに動けなかった、という点でトラファルガーのヴィルヌーヴと同じ位置にいる。
フリードリヒ・パウルス。ヨハネス・ヘーレ撮影、デンマーク国立博物館蔵。Public Domain, via Wikimedia Commons
登場する事例