戦略・戦術ラボ Strategy & Tactics
陸軍元帥の軍服を着たドワイト・D・アイゼンハワーの肖像写真

人物

ドワイト・D・アイゼンハワー

連合国遠征軍最高司令官

生没: 1890–1969

成立条件が相手の思い込みであることを承知で決断し、失敗の声明文を先に書いた最高司令官。

名将としてではなく、多国籍・多軍種の司令部を壊さずに動かし続けた人として評価される司令官。ノルマンディーでは、作戦の成立条件が「相手が別の場所を本命だと信じ続けること」であることを承知のうえで決断した。6月5日、上陸を命じると同時に失敗したときの声明文を書いて上着に入れている。賭ける前に、負けたときの引き受け方を先に決める人物である。

流儀:決めるより先に、決めなくてよい形を作る

アイゼンハワーは名将として語られる人ではない。連合国の陸海空・英米仏をひとつの司令部にまとめ、誰も辞めずに済む形を作り続けた人である。作戦を発明したのではなく、作戦が壊れない構造を作った。

それはノルマンディーの決断にも出ている。6月5日、天候の見通しは悪かった。彼は上げると決め、同時に失敗したときの声明文を書いて上着に入れた——「上陸は失敗した。責めは私一人にある」。賭ける前に、負けたときの引き受け方を先に決めている。

繰り返し現れる型

01

合議を壊さないことを仕事にする

英米の将官が互いを嫌っていても作戦が回るように、司令部の形のほうを設計した。

02

失敗の引き受け方を先に書く

負けたときの声明を事前に書いた。責任の所在が決まっていると、途中で判断が鈍らない。

03

嘘を作戦の一部として承認する

欺瞞は付け足しではなく、上陸計画の前提として組み込まれていた。成立条件が嘘であることを、司令官が引き受けている。

強みと弱み

強み

多国籍・多軍種の指揮系統を一つにまとめられる。

弱み

まとめること自体が目的化すると、戦術上の最善が選ばれないことがある。実際に上陸後の作戦指導はしばしば妥協的だった。

強み

成立条件が「相手の信念」であることを承知で決断できる。

弱み

その信念がいつ壊れるかは自分では決められない。上陸後の 7 週は、贈り物のような時間だった。

流儀が見えた場面:ノルマンディー

この日の上陸は 156,000 人。だが作戦の余白を作ったのは兵力ではなく、相手の地図の上にあった存在しない軍集団である。ミッドウェーのニミッツが相手の計画を読んだのに対し、こちらは相手の計画の前提を書いた。

ドワイト・D・アイゼンハワー元帥、1940年代、米陸軍撮影。Public Domain, via Wikimedia Commons

登場する事例